飛蚊症を鍼灸する
眼科的には問題視しないものがほとんどだということですが、当の患者さんからしてみればそれはそれはうっとうしい症状です。
現代医学的には治らないとされていますが、東洋医学のフィルターを通してみていきましょう。
目は肝の外候
古医書に、
- 「肝は目に竅を開く」
- 「肝は目を司る」
- 「肝は血を受けてよく視える」
- 「肝気は目に通じて機能が正常であれば視力が充分にあって五色をはっきりと見分けることができる」
等とあり、肝と目は密接に関係しています。
目の状態で肝の状態をうかがい知ることができます。
五臓六腑の精皆目に通ず
それだけでなく五臓六腑の精気は全て目に注ぎます。
久しく視れば血を傷る
目を使いすぎると血虚になるということで、心血・肝血に影響します。
眼は心の使い心は神の舎
これは眼神を指して言っていると思われます。
五臓六腑の精・十二経脈の血気が上に昇って目に注ぐわけですから、目力や輝きの有無で生気の盛衰を推し量ることができます。
順逆を別つ上で眼診は欠かせません。
目の五行(五輪)
- 瞳子(ひとみ)/瞳(水輪)は腎
- 鳥眼(くろまなこ)/黒目(風輪)は肝
- 白晴(しろまなこ)/白目(気輪)は肺
- 眥(まがしら)/目尻・目頭(血輪)は心
- 胞(まぶた)/上下の瞼(肉輪)は脾
目系
眼系・目本ともいい、目と脳を結ぶ脈絡。
具体的には眼球の後ろの大血管や視神経などを指します。
目系には肝経・腎経・心経・胃経・胆経・膀胱経・陰蹻脉・足陽明脉・足厥陰脉などが流注します。
諸説
- 『類経』「目之明在瞳子.瞳子者之精也」
- 『杉山流三部書』眼目は血により包み絡われる、血を以て目の本とす、故に精血枯れる時は目の明を失す。
- 『東洋医学講座』(小林三剛著)
- 腎は発電所で視力に関係する。
- 肝は送電線で遠近に関係する。
- 心は電灯で明暗に関係する。
何といっても肝の変動です。
蔵血の大過不及
足の厥陰肝経は全身の血を収斂し、肝臓に蔵血します。
この血をエネルギー源にして発散し気血をあらゆる細胞・組織・器官・臓腑経絡・四肢・百骸に条達させ養い活動力を与えます。
当然目にもその恩恵が与えられ、よく視ることができます。
蔵血が失調すると、目を養い活動力を与えることができずに、目の奥で濁りができたり剥離したりして飛蚊症が出現します。
疏泄の大過不及
発散するだけの血が肝臓にあったとしても、何らかの抑圧がかかると発散することができません。
目に気血が巡ってこないので目を養い活動力を与えることができずに、目の奥で濁りができたり剥離したりして飛蚊症が出現します。
瘀血
蔵血・疏泄の大過不及は、虚実の違いはあれ共通項として瘀血という病理産物を招きます。
気が滞るからです。
経絡治療学では肝虚でも肝実でも瘀血が発生します。
本治法
肝の変動ですから、
- 肝虚証
- 肝虚肺実証
- 肝虚脾実証
- 肝虚心実証(七十五難)
- 肝肺相剋証
- 肝脾相剋証
- 肺虚肝実証
- 脾虚肝実証
- 肺肝相剋証
- 脾肝相剋証
- 腎虚肝実証(七十五難)
等の病因病理に従って本治法をし、生命力を強化します。
標治法
“根結治療”を応用します。
健側の目を手で覆ってもらい患側の目で見てもらい、
- 目の中央に虫が飛んでいる場合は患側の中央厲兌か厲兌。
- 目の内側に虫が飛んでいる場合は患側の至陰。
- 目の外側に虫が飛んでいる場合は患側の足竅陰。
を選穴し、てい鍼で補います。
患者に虫が薄くなったり数が減ってきたら教えてくださいとして、声がかかったら鍼を取ります。
治療を重ねる内に飛蚊症が気にならなくなってきます。
両目とも飛んでいる場合はひどい方から順に両方やります。
瞳孔線上に虫が飛んでいる場合の選穴ですが、片方の手で患者の脉を診ながらもう片方の手の指で中央厲兌と厲兌を軽く触って脉がよくなる方を選びます。
これが脉を診れる治療家の利点です。
脉をモニターしながらその良否であらゆる治療の適否を決めることができます。
脉が診れるようになると高性能のスケールとして治療家を助けてくれるツールになります。
それこそ、湯液家であっても巧みに応用できます。
効能のよく似たAとBの漢方薬のどちらを処方すればよいかで迷った場合に、こういう方法もあるわけです。
脉診が苦手な人は、目なので首肩に必ず反応がありますから、それらの所見が改善するかどうかを宮脇スタイルで判定してください。
また何かの原因疾患があって飛蚊症が二次的に発症しているものは腎の変動が多いです。
その場合は、
- 腎虚証
- 腎虚脾実証
- 腎虚心実証
- 腎虚肝実証(七十五難)
- 腎脾相剋証
- 腎心相剋証
- 肝虚証
- 脾虚腎実証
- 心虚腎実証
- 肺虚腎実証(七十五難)
- 脾腎相剋証
- 心腎相剋証
等の病因病理に従って本治法をし、生命力を強化します。
ただし注意しなければならないのは、重篤な病気のサインとして飛蚊症が出ている場合があります。
慎重に臨床を進めて場合によっては医療機関に委ねてください。
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