よくなおる経絡治療 日本はり医学会方式
経絡治療の定義
五臓を原とする主たる変動経絡の虚実を弁え補瀉調整し生命力を強化する随証療法を経絡治療とします。
日本はり医学会方式とは
経絡治療は、産みの親と言われている竹山晋一郎・井上恵理・岡部素道の三先生によって唱えだされ、東洋はり医学会初代正副会長の福島弘道・小里勝之両先生が学術的に独自の改良を加え、さらなる発展を遂げました。
これらを踏襲し、さらに進化させたその先の経絡治療が、よくなおる経絡治療『日本はり医学会方式』です。
その特徴は、
- 病症腹証脉証一貫性
- 双方向共有システム宮脇スタイルによる未来弁証
- 難経六十九難の新解釈
- 少数穴本治法
- 適応側の応用範囲の拡大
などが従来の経絡治療をより進化させた点です。
1.病証腹証脉証一貫性
脉証に腹証を加えることで誤診を防ぎます。
さらに、病証を加え三位一体型とすることで、証決定の制度が上がります。
- 先ず患者が訴える病症より、変動経絡を弁別します。
- 次に腹診と脉診で虚実を分かちます。
例えば耳鳴り。
病証は、耳を主る腎の変動です。
腹診と脉診で腎虚か腎実かを確認します。
脉診よりも物理的で面で診やすい腹診を先に行い、最後に脉診をします。
2.双方向共有システム宮脇スタイルによる未来弁証
立てた証、選穴、適応側の正否を診察診断する方法です。
治療前に治療の良否や予後が分かるので、未来診断としての側面を持ちます。
未来弁証という新たな領域です。
詳しくは以下の動画をご覧ください。
3.難経六十九難の新解釈
聖典『難経』の六十九難「虚すればその母を補い、実すればその子を瀉す」に従い、肝虚証なら自経の肝経と母経の腎経を補っていましたが、主たる変動経絡である肝経を整脉力豊かに補えたならば、左関上沈めて肝の脉位だけでなく、左尺中沈めて腎の脉位まで脉が充実することが分かりました。
このような場合に、母経の腎経を補うと悪化することも分かりました。
そこでこれを、選経ではなく選穴論であると新しい解釈を加えました。
肝虚証なら肝経と母経の腎経を選経すると解釈するのではなく、肝経の母穴である曲泉を選穴し、肝実証では肝経と子経を選経すると解釈するのではなく、肝経の子穴である行間を選穴すると解釈します。
そうすると、母経を補えとは一言も言っていません。
これは、臨床からフィードバックした理論ですから、何より信頼できます。
4.少数穴本治法
それにより、母経の補いが要らない場合があるということです。
また、宮脇スタイルによる未来弁証のお陰で、選びに選び抜いた本当に身体に必要な一穴を補うわけですから、ほぼこの一穴一本の鍼で勝負が決まります。
後は、必要に応じて相剋経と陽経の虚実を補瀉して経絡を平らにすればいいだけなので、最少で1穴1本の平均1~3穴/本の少数穴で生命力を強化することができます。
ただし、主たる変動経絡を幾ら補っても母経が依然虚している場合は、やはり補う必要があります。
5.適応側の応用範囲の拡大
特に相剋経の補瀉を加える時は、主たる変動経絡を本証、相剋経の補瀉を副証とします。
今までのルールでは、本証と副証の適応側を左右に振り分けていました。
例えば脾虚肝実証で適応側が左なら、本証の脾虚は左の脾経を補い、副証の肝実は右の肝経を瀉していました。
当会相談役の古野忠光先生が、本証も副証も同側で補瀉をする場合があることを発見されました。
これも臨床から生まれたものです。
例えば肝虚脾実証で、今までは本証と副証の補瀉を左右の適応側に振り分けていましたが、適応側が左なら左の肝経を補い左の脾経を瀉す、あるいは適応側が右なら右同士で補瀉を完結した方が経過がいい場合があるということです。
これも未来弁証宮脇スタイルで診断することができます。
実際の診察診断~治療まで
- 問診
患者の主訴、愁訴より病症を弁別します。
●五大病症
- 肺 咳嗽、寒熱往来、肩凝り、気の病、皮膚病。
- 脾 消化・吸収障害、疲れやすく、身体重く、節々が痛む。
- 心 身熱し、むないきれする、五感器及び精神障害。
- 腎 足冷え、のぼせ(逆気)、総て体液のもれ出で出血、元気衰弱、泌尿生殖器疾患。
- 肝 心窩部につかえ、脇腹張り、目眩し、筋緩んでくよくよする、内分泌疾患。
※あくまで、基本の範疇です。これが全てではありません。
傷寒雑病論を勉強してください。
- 腹診
何れの臓腑経絡に生気の虚が在るのか、何れの臓腑経絡に邪気実が在るのかを弁別します。
●腹診について
手掌全体を使って、1㍉も浮かせず1㍉も沈めず圧0㌘の重さの“エンジェルタッチ”で、皮膚を滑らせるようしてに診ていきます。
- 虚は陥下・冷え・ざらつき・力なく軟弱等。
- 実はつっぱり・硬い・按じて不快感や痛み等。
手順は、
- 大腹と小腹を比較します。
- 各経絡の配当部位につき虚実を診ます。
- 脉診
六部定位脉診で、脉状診と比較脉診を行います。
- 脉状診
浮沈、遅数、虚実の六祖脉を弁別します。
患者の今の状態をうかがい知ることができる脉診で、信頼のおけるモノサシとして術前術後の効果判定に常用します。
- 比較脉診
何れの臓腑経絡に生気の虚が在るのか?何れの臓腑経絡に邪気実が在るのか?を弁別します。
※図では右尺中は心包となっていますが、正しくは命門です。
- 証決定
病証腹証脉証一貫性により証(生気を補うべき主たる変動経絡を)決定します。
- 肝虚証
- 心虚証
- 脾虚証
- 肺虚証
- 腎虚証
- 選経選穴
選経は証に従い自ずと決まります。
選穴は基本七穴で70%がまかなえます。
69難基本選穴。
残りの30%は応用で病体に応じて選穴します。
68難病症選穴。
- 適応側の判定
- 病症に偏りがあれば健康側
- 偏りが判別しなければ男は左側、女は右側
- 病の新久では新病側
を基本とし、以下応用です。
これらの理論を考慮し、実際に取穴して、証、選穴と共に、適応側の正否を判定し、最終決定します。
便宜上中野はこの判定方法を「未来弁証」としています(※統一見解的名称ではありません)。
- 治療法則
- 証に従い主たる変動経絡(肝心脾肺腎)の生気を補います。
- 母経の有無を確認し、必要に応じて補います。主たる変動経絡を整脉力豊かに補えたならば、大抵は必要なくなります。(※ただし初学者は型を覚えることに重きを置くので従来通り母経を補ってください。脉が診れるようになったら母経の有無を判断してこれに拘らずに進めてください。)
- 必要に応じて相剋経の虚実を弁えて補瀉します。
- 必要に応じて陽経の虚実を弁えて補瀉します。
先ずは主たる変動経絡を補ってください。
その後に本当の証が出てきます。
証の種類
厳密にいうと無限ですが、臨床的に遭遇する証が30パターンあります。
以下のリンクにまとめましたのでご覧になって下さい。
特筆すべきはこれまで難解だった七十五難を“よくわかる七十五難”にしています。
陽経の補瀉
陰経を整脉力豊かに補い、相剋経を補瀉調整すると、陽経に虚実が現れます。
多くは、主訴・愁訴に関連する陽経に邪気実として浮いてきます。
脉状から実邪と虚性の邪を弁え、邪気実に応じた手技手法で処理します。
- 実邪
- 浮実の脉状に応ずる瀉法。
- 弦実の脉状に応ずる瀉法。
- 虚性の邪
- 塵の脉状に応ずる補中の瀉法。
- 枯の脉状に応ずる補中の瀉法。
- 堅の脉状に応ずる補中の瀉法。
- 気血の滞り
- 気血の滞りの脉状に応ずる和法
補助療法・標治法~治療終了
本治法が済んだら、適宜補助療法、標治法を加え、最後に病証腹証脉証を確認して治療終了し、次回の予約をとります。
おわりに
片方刺しによる適応側を左右に振り分けた重虚極補の相剋調整を打ち出された福島弘道先生、さらに継承発展させられ頂に押し上げられた柳下登志夫先生、そしてその礎を築かれた香取利雄先生、母経を補うと脉状が崩れることに気付かれ、さらに経絡治療家として歴史上初めて本治法を科学された宮脇優輝先生、陰実証で同側補瀉の存在を発見された古野忠光先生に感謝申し上げます。
経絡治療は次の領域へと昇りました。
難経制覇は直ぐそこです。
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