三因制宜(さんいんせいぎ)の大事

因時・因地・因人のことで、疾病の発生・進行は多方面の素因の影響があり、季節、気候、地理環境、体質など考慮して治療を心がける必要があります。

1.因時制宜(いんじせいぎ)
発症した時を考慮します。
時には季節、時間、月齢、産前産後などが含まれます。
例えば、梅雨の時期や季節の変わり目である土用に悪化する、体調が悪くなるのは湿邪の影響です。
土剋水で腎が変動しやすくなります。
2.因地制宜(いんちせいぎ)
発症した地を考慮します。
地には土地、風土、環境、住居、職場、学校などが含まれます。
例えば、義理の父母との同居や職場の人間関係などによってストレスに曝され続けたがために肝鬱気滞を来たし、さらに瘀血火化へと発展して発病することがあります。
3.因人制宜(いんじんせいぎ)
発症した人を考慮します。
人には小児、大人、男女、老人、妊婦、体質、気質などが含まれます。
例えばカゼをひいたとして、小児の場合は発病容易(発病しやすい)、伝変迅速(病の変化が速い)といった生理的特徴より、うんと高い熱が出るけれでも容易に治ることがほとんどです。
一方老人の場合は熱が余り出ない代わりに長々と後を引くなど、同じカゼでも予後に違いがあります。
臨床的に整理すると以下のように考えます。
  1. 因人・・・どういう人が発病したのか?
  2. 因時・・・いつから発病したのか?
  3. 因地・・・どこに居た時から発病したのか?
この三因制宜を三因方(内因、外因、不内外因)と絡めて病気を分析していきます。
病体によっては三因制宜が優位になる場合もあります。
◎症例
⚫︎患者 30代女性。
⚫︎主訴 腰痛。
⚫︎現病歴 3ヶ月前に出産してから腰が痛くなり、今は立ち仕事をしている時が最も痛くて辛い。
⚫︎四診 比較腹診および比較脉診共に肝腎虚、肺脾実、心平。
⚫︎証決定 肝虚証。
⚫︎経過 定期的に治療を行い治癒。

という症例ですが、腰痛は腎は腰の府で腎水経の変動であり、悪化する条件が立ち仕事なので、不内外因に分類されている五労の久しく立てば骨を傷るに当たり、これもまた腎水経の変動です。
けれどもお腹も脉も肝虚証を呈していました。
これをどのように考えればよいのでしょう。

発病の起点が出産してからです。
因時制宜は産後ということになります。
因人制宜は妊産婦です。
📖聖典『傷寒雑病論』では、産後に端を発する病は全て婦人産後病と定義しています。
条文では、
「婦人産後病脉證治第二十一.問曰.新産婦人有三病.一者病痙.二者病鬱冒.三者大便難.何謂也.師曰.新産血虚.多汗出.喜中風.故令病痙.亡血復汗.寒多.故令鬱冒.亡津液胃燥.故大便難.産婦鬱冒.其脉微弱.嘔不能食.大便反堅.但頭汗出.所以然者.血虚而厥.厥而必冒.冒家欲解.必大汗出.以血虚下厥.孤陽上出.故頭汗出.所以産婦喜汗出者.亡陰血虚.陽氣獨盛.故當汗出.陰陽乃復.大便堅.嘔不能食.小柴胡湯主之.」
とあります。

超訳すると、産後の女性は三病にかかります。
①痙病(腰痛はこれの範疇)
②鬱冒(頭顔面部の病)
③大便難(便秘)
これらの病症は血虚や亡津液といった病因病理が原因です。
治療は小柴胡湯で血を補います。
といったほどです。

出産で大出血をします。
当然、血虚し亡血です。
また過度に発汗します。
亡津液です。
あるいは、汗は白い血という考え方もあります。
血虚です。

なので、本症例の主訴である腰痛の増悪条件が、腎水経の変動であるにも関わらず肝虚証という証が立ったのでしょう。
三因制宜まで考慮して上手くいった典型的な症例です。
三因方だけに固執していたら、病の本体を解き明かすことは出来なかったでしょう。

基礎中の基礎で、それこそ釈迦に説法ですが、参考になりましたら幸いですm(_ _)m

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鍼灸師の鍼灸師による鍼灸師のためのowned 鍼灸にはあらゆる流派や様式が在ります。 この多様性が日本鍼灸の優秀性のひとつだと 感じています。 各流派に優劣は在りません。 それぞれに素晴らしい学術があり、互いを高め合う間柄です。 流派は違えど、患者を病苦から救うという同じ使命を持った鍼灸師です。 元々1つです。 互いを認め高めあい、上工に成れるように、願いを込めてこの名前を付けました。 ONE