急性胆のう炎の鍼灸治療
!!!!まさかの急性胆のう炎!!!!
1月5日金曜日の朝お腹の痛みで目が覚めた。
どこが痛いのかよく分からないがじっとしていられない。
七転八倒とはこの事を言うのか?
様子を見かねた妻に諭され病院へ。
確かにとてもじゃないが臨床は無理である。
治療室にいるスタッフに当座の予約を全てキャンセルするように連絡して(快くお日にちを変更してくださり患者さまには感謝申し上げます。)妻の車に乗り込み胃腸科へ。
苦悶の表情を浮かべる筆者を見てただ事じゃないと感じたのか直ぐにベッドに案内されここで休んで診察を待つようにとのこと。
その間血圧測定と検温、特に問題なし。
しばらくして診察室へ。
最初胃腸炎を疑ったのか生物を食べてないか?嘔吐下痢はしていないか?を問われたが覚えなし。
診察台に寝かされて腹部の触診。
心窩部、臍周囲、下腹部を押さえられても痛くない。
取り敢えずエコー。
すると即座に「あっ胆のう炎やな」と。
確認で右季肋部に腹部打診をすると確かに響く。
診察の結果は急性胆のう炎!Σ(×_×;)!
エコーの画像を先生が説明してくれたが素人目にもハッキリと分かるくらい確かに胆石が確認できる。
これが原因らしい。
「今すぐ手術です。胆のうを取らなければなりません。」
先生の言葉に耳を疑った。
「えっ!?胆のう取るんですか?」
思わず聞き返してしまったが、胆のうをごっそり取らなければならないらしい。
以前は入院点滴で石を溶かしたらしいが、今の急性胆のう炎のガイドラインでは、石があって痛みがあれば取ることになっているとのこと。
取ってしまえば発作の再発がなくなるからだ。
石があっても痛みがなければ痛みが出るまで保存でいいらしいのだが・・・。
ここでは手術ができないとのことで消化器外科へ直で紹介の電話をしてくださり、紹介状を持って胃腸科をあとにした。
真っ直ぐに紹介された病院に向かわずに、一旦自宅に立ち寄った。
絶対に切りたくなかったので精密検査をする前に治療することにした。
発作時はとてもじゃないがそんな余裕はなかったが、不思議なことに先の胃腸科での診察中に右季肋部の腹部打診のあと、どういうわけか痛みが少しマシになり、何とか自分の体を診れそうにはなっていた。
治療
■先ず急なれば標を治せに従い、とにかく鎮痛である。
右鎖骨上窩の欠盆周辺の圧痛を探り、最も痛い穴にコバルト寸三二番鍼を接触、スーっと進めて抵抗に当たったらとどめて、鍼先が緩んだらポンッと抜鍼して鍼口を軽く塞ぐ古野式経絡頚腕調整治療を施す。
これをすると胆のうの腫れがひいて痛みが和らぎます。
■次いで宮脇奇経治療。
胆のう炎には内関-公孫か通里-太衝か太衝-通里。
右季肋部の最も圧痛の強い穴に印をつけ、それが和らぐのを目安に各奇経パターンにテスターを貼って比べると通里-太衝が一番マシになる。
雑病では左通里-左太衝が定側ですが、今回は患側の右通里-右太衝に取った。
通里に金粒、太衝に銀粒を貼ってその上から通里に5壮、太衝に3壮知熱灸。
■次いで子午治療。
患部を肝の領域と考えて子午陰陽関係に当たる小腸経を選経。
胆のうが右にあるので左小腸経の腕骨に金粒を貼ってその上から知熱灸7壮。
■そしてようやく本治法。
胆のう炎は肝胆の実だから、本証は脾虚か肺虚。
腹診と脉診により脾虚肝実証とした。
胆のうが右にあるのでこちらを患側とし、健康側の左太白を柳下てい鍼で補う。検脉すると脾は充実していたが心がまだ虚しているので左大陵を補う。検脉すると心が充実し相剋する肝腎の実は治まり陽経にも特に邪はみられないのでこれでおく。
■最後に中カン・非適応側の天枢・適応側の天枢・下腹部に止め鍼。
止め鍼をするとドーゼの多少を調節してくれます。
■最後の最後に百会左斜め後ろを補う。
これをすると今日の治療効果を次回まで保存することができます。
ドラクエでいうセーブです。
■最後の最後の最後に検脉をして和緩を帯びたのを確認して終了。
この時すでに痛みはなくなっていました。
いざ病院へ。
検査の結果、胆のうはやや腫れているものの胆石は動いたのかCT、レントゲンでは分かりにくかったようです。
胆石が動いたために痛みが治まっているのではないか?とのこと。
血液検査は肝機能は高かったですが炎症反応は正常値でした。
現在痛みがないので手術はせずに様子を見ましょうとのこと。
入院はしなくて済みました。
胆汁の流れをよくする薬と胆管を広げる薬をいただいて自宅療養。
9日の火曜日にもう検査することに。
ただし、胆石発作が起こったら直ぐに受診してくださいとのこと。
痛みが再発すると今度は待ったなしで手術になるので、胆のうの炎症が完全にひくように再検査まで毎日朝昼番と左から脾虚肝実証で本治法、右欠盆に古野式経絡頚腕調整治療、右通里-右太衝に宮脇奇経治療、左腕骨に子午治療を行いました。
そして、本日再検査。
あれから痛みがなく、画像でも胆のうの腫れが引いているので前回同様手術をする必要はないとのこと。
胆石とその上澄みがあるので3ヶ月後にまた検査することになりました。
考察
何はともあれ入院手術を回避できたことがもう何よりです。
幾つか勉強になったことがあります。
■教科書では胆のう炎の場合は右季肋部、右側腹部、右背部が痛むと習いましたが、あの時はお腹全体背中全体が悶絶するほど痛かったこと。
急性の腹痛でよくわからないものは画像診断が必要ですので即座に医療機関です。
■最初に受診した胃腸科で腹部の打診後に痛みが少しマシになったのは不思議でたまりませんでしたが、多分肝経の期門や胆経の日月に瀉的に作用したからではないかと考えます。
夢分流では脾募、肺尖に当たりますがここの邪を緩解させてくれたのでしょう。
皮膚刺激です。
やっぱり皮膚なんですよ。
最も気を動かせるステージは。
浅ければ浅いほど深いところにそして全身に影響するということです。
■今さらですが奇経と子午は痛みに対しては抜群に効きます。
即効性があります。
正経の治療と奇経治療の性質を比較すると次のようになります。
優劣はありませんが、緊急時には先ずは奇経です。
もちろん子午も。
そしてその効果を持続安定させるためには正経の調整が要ります。
奇経は何と言っても「宮脇奇経治療」です。
従来の八脉の足らずをスーパー4で補完しています。
この12パターンを「奇経腹診」で診察診断・適否・良否の判定ができます。
事実、手少陰脉の通里-太衝があったからこそ助かったわけですから。
■ということで、病体に応じて本治法、標治法、補助療法を、緩なれば本から急なれば標からあるいは取捨選択して施すべきであり、この多様性に富んだ本・標・補助三位一体の術式から成る東洋はり関西STYLEの経絡治療を学んで本当によかったなと思いました。
今回も助けられました。
お陰さまで早期回復することができました。
■本質治療も対症療法も両方大事です。
標治法なんて結局対症療法じゃないかと非難されることもしばしばありますが、違うんですよ!
車の両輪の如くで、どちらかが欠けると走れないのと同じで両方要るんですよ!!
経絡の阻滞と局所の阻滞と両方疏通した方が治りがいいのです!!!
■治療毎におならが出ておしっこがメチャメチャ出ました。
「気は水の母」だなと実感しました。
「気化すれば出ず」とか「水道を通調する」とありますが、気の性質、気と水の関係を分かっていれば水毒や水気病なんてのは解決できます。
胆石胆のう炎の病因病理
胆汁の成分から形作られた結石が胆のう内部に生じたのが胆石です。
つまり、胆汁の流れが悪くなると凝り固まって胆石ができます。
体の内外のありとあらゆる循環は気血水に依存しています。
胆汁の生成循環もこれに準拠します。
気が巡れば水が巡り水が巡れば血が巡り血が巡ればまた気が巡ります。
つまるところ、気血水が滞ると胆汁の流れも滞ります。
そして、瘀血という病理産物ができます。
胆石は瘀血です。
瘀血は血の停滞ですからその前に水の停滞と気の停滞があります。
気滞と湿痰です。
気滞の原因は七情の乱れいわゆるストレスです。
湿痰の原因は暴飲暴食と運動不足と思慮過度です。
気滞あるいは湿痰があって気と水が停滞すると血が停滞して瘀血ができそれが高じて邪熱が発生して発病します。
ストレス(気滞)+生活習慣の不摂生(湿痰)=胆汁の停滞→胆石(瘀血)→胆のう炎(邪熱)
というのが発病に至るメカニズムです。
思い当たること満載です(^_^;)
胆石胆のう炎の鍼灸治療
◎発作時は急なれば標から治療します。
■補助療法
□古野式経絡頚腕調整治療
右欠盆周辺の最圧痛点に補鍼。
□宮脇奇経治療。
右内関-右公孫or右通里-右太衝or右太衝-右通里にテスターを貼って比べて痛みが最もマシになる奇経を選択する。
□子午治療。
肝-小腸で左腕骨。
■本治法。
左適応側の脾虚肝実証or肺虚肝実証。
※朝昼番あるいは頓服を飲むように3時間おきに治療します。
◎緩解期は緩なれば本から治療します。
■本治法。
■補助療法。
□古野式経絡頚腕調整治療
□奇経治療。
□子午治療。
◎養生
■ストレスを溜めないことが気滞の解消。
■節度ある食生活と適度な運動と考えすぎないように心がけることが湿痰の解消。
■気滞と湿痰を解消することが瘀血の解消。
■油濃いものや味の濃いものを多食すると邪熱を温床します。
肝胆(きも)の大事
胆のうを取るメリットは、胆石発作が起こらなくなる、胆がんのリスクがなくなることですが、デメリットはきもがやられることです。
だから切りたくなかったのです。
肝も胆も共に「きも」と読みます。
■肝(きも)
□五臓の1つ。
□胆汁を作り血液を浄化し尿素を出す働
きをする器官。
□肝臓。
□漢方医学では全身の元気と張りをつける重要な内臓と考える。
□肝要(肝臓と腰→非常に大切なところ)
□肝は将軍の官謀慮出ず(素問・霊蘭秘典論)
□こころ。
□胸のうち。
□心肝(まごころ、また大事にすべき人)
□勇気や決断力。
□肝は肉+干で身体の中心となる幹の役目をするかん臓。
□樹木で枝と幹が相対する如く身体では肢(枝のように身体に生えた手や足)と肝とが相対する。
□肝膈、身体の奥深くにある肝臓と横隔膜。転じて本心のこと。
□肝心、肝臓と心臓。転じてこころのこと。
□肝腎、肝臓と腎臓。相応じて体力を保つ大切な器官。
□肝胆(膽)、肝臓と胆嚢。相応じて体力を保つ大切な器官。本当の考え。本心。肝と胆とはすぐ続いていることから肝胆相照らす。
□肝脳、肝臓と脳みそ。
□肝肺、肝臓と肺臓。転じてこころ。まごころ。
□肝脾、肝臓と脾臓。転じてこころ。
■胆(きも)
□肝臓が分泌した胆汁を蓄える器官。
□漢方医学では肝と胆が相連なって人体の安定と気力を保つ働きをすると考えた。
□胆嚢。
□胆は中正の官決断出ず(素問・霊蘭秘典論)
□ずっしりとした勇気や決断力。
□きもったま。
□胆略(勇気と智恵)
□器物の内部に設けられたもの。
□膽はずっしりと重く落ち着かせる役目を持つ内臓。
□胆はもと、あぶら、口紅の意。
□擔(=担、ずっしりと重い)・澹(静かに落ち着く)・檐(重みを支える軒)などと同系。
□胆気、物事を恐れずに行う気力。
□胆力、ずっしりと落ち着いた気力。物事に容易く驚いたり慌てたりしない気力。
ということで、真心(まごころ)や勇気の元締めがきもです。
きもが据わるとも言いますね。
機能を観る東洋医学独自の視点です。
臨床家はこの力を失うわけにはいかないのです。
植芝盛平や中村天風のような眼力はきもが据わらないとできません。
何度も何度も繰り返しますが、胆のうを切らずに済んでよかったです。
みなさまにはご心配をお掛けしたことをお詫び申し上げます。
心暖まるお言葉をたくさんいただきありがとうございました。
患者様におかれましては、せっかく治療を楽しみにしてくださっていたのにも関わらず体調管理の甘さからご迷惑をお掛けしたことをお詫び申し上げます。
快く予約の日時を変更してくださり感謝申し上げます。
僕の治療を中宮院を愛してくださるみなさんにもっともっと感動していただける治療をお届けできるように、今後は日々万全の体調で臨床に入れるように留意し、精一杯みなさんの健康をサポートさせていただきます。
療養中は、栄養士の妻が胆のうに負担がかからず、かつ体力を落とさないように精のつく献立を考えてくれて献身的に支えてくれました。
子供たちを含めやはり家族の存在は大きいです。
最後に、中野正得を支えてくださる全ての方々に今一度お詫びと感謝を申し上げます。
ありがとうございます。
今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。
そして、いつも僕を支えてくれる愛すべき家族への感謝の言葉で結びとさせていただくことをご容赦ください。
ありがとう(^з^)-☆
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