風邪の鍼灸治療②
◎症例
■患者 筆者。
■現病歴 22日の夜中に呼吸が苦しくなって目が覚める。
尋常でないくらい喉が痛い。
咽喉の腫れが酷いのか呼吸がままならない。
これはマズイと思って鍼道具を探す。
体もだるいし熱もある。高そうなので計らない。
◎脉作りの臨床における基盤作り
■右Tポイントを中野式柳下てい鍼で補う。
■左→右の順に脈会を中野式柳下てい鍼で補う。
◎診察診断
■腹診 肝最も虚、腎次いで虚、肺最も実、脾次いで虚、心は平。
■脉状診 沈・数・虚。
■比較脉診 肝最も虚、腎次いで虚、肺最も実、脾次いで虚、心は平。
■証決定 肝虚肺実証。
■適応側 病症に偏りなく男性なので本来は左側だが、天枢診では右側を触った時の方が脉状が良くなるので右側を適応側とした。
◎治療1回目(22日深夜)
■本治法
右中封を補う→検脉→肝が出る。腎はまだ虚しているので右復溜を補う→検脉→腎が出る。相剋の右寸口沈めて肺の脉位に実邪を確認。強烈に強く荒々しい。肺経を切経して最も邪が客している左孔最~尺沢にかけての実所見に対して柳下圓鍼で3回瀉法→脉が締まって整う→咽喉の腫れがひいたのか呼吸ができるようになる。
■補助療法
子午治療。左右の人迎~水突ら辺の反応を探し、圧痛を比べると左側の方が痛いので左を患側とし、次に反対の右側の蠡溝を軽く取穴した時と、同じく右側の大鐘を軽く取穴した時とどちらの方が咽喉部の圧痛が減るかを調べると、大鐘の方が痛みが楽になるので、右大鐘を中野式柳下てい鍼で補う。
つまり咽喉部の腫れ痛みを大腸経の変動と捉え、子午陰陽関係に当たる腎経を利用した治療法。
補った後、大鐘に金粒を貼ってその上から知熱灸5壮。
→喉の痛みが和らいだので取り敢えず就寝。
◎治療2回目(22日夜)
■経過
何とか仕事はできたが夜になるにつれ、咽喉痛、発熱、だるさが増してきた。帰宅後しんどいのを押して治療。
■本治法
右中封と右復溜を補って左孔最~尺沢を瀉法。
■補助療法
大腸-腎の子午治療で右大鐘を補う。
→症状軽減。
◎治療3回目(23日朝)
■経過
夜中は起きなかった。朝大きな血痰が出た。どうやら相当炎症がきついらしい。ただし痰が出だした方が楽である。
■本治法
右中封と右復溜を補って左孔最~尺沢に瀉法。毎回本治法後に体が楽になるのがよく分かる。
■補助療法
□奇経治療 痰が出だしたので去痰薬の代わりと肺熱がこれ以上内攻しないように(内攻すると肺炎になる)孔最-照海(任脉の変法)に金銀粒を貼ってその上から5壮3壮で知熱灸。
□子午治療 右大鐘を補う。
→症状軽減。
◎治療4回目(23日お昼休み)
■経過
午前の臨床を無事こなせた。
■本治法
右中封と右復溜を補って左孔最~尺沢を瀉法。
■補助療法
□奇経治療 孔最-照海。
□子午治療 右大鐘。
→症状軽減。
◎治療5回目(23日夜)
■経過
だるさがほぼ消失、咽喉痛はまだもう少し、熱は微熱程度。
■本治法
右中封と右復溜を補って左孔最~尺沢を瀉法。
■補助療法
□奇経治療 孔最-照海。
□子午治療 右大鐘。
◎経過 治癒。
治療2日間で計5回。
風邪の病因病理
先ず邪気の性質として、風邪は陽邪ですか天の部である項から人体に侵襲します。
寒邪は陰邪ですから地の部である足下から人体に侵襲します。
今の時期、多くは寒邪が風(邪)にのって肩背部から侵襲しブルッとして悪寒発熱します。
傷寒です。
僕の場合は悪寒なく喉の腫れ痛みと発熱から始まっていますから温熱の邪気による温病です。
邪気の種類で言えば風邪+熱邪=風熱による口腔感染です。
本来なら季節を告げ体の恵みとなるはずの各気候が人体を蝕む邪気となって襲いかかってくるのはなぜでしょう?
それは私たちの体の方に問題があるからです。
五臓の精気の虚があるからです。
五臓が壮健であれば邪気を跳ね返し侵入を許しません。
これを「内傷なければ外邪入らず」とします。
東洋医学の大原則の1つです。
怒喜思憂悲恐驚の七情の乱れや飲食労倦
、つまり精神的な疲弊と肉体的な疲労によるストレスや不規則な生活習慣が五臓を乱します。
そうしてほころびた五臓の精気の虚に剰じて風暑湿燥寒熱(火)の六淫の外邪が人体を侵襲して発病するのです。
今回病院には行っていませんしお薬も飲んでいません。
鍼とお灸で治しました。
理由は、抗生剤は風邪にはほとんど無効ですし、解熱剤や消炎鎮痛剤を使うと治りが悪くなるからです。
消炎鎮痛解熱剤は、急性発熱時に現れる痛み・発赤・腫脹・熱感を和らげてくれますが逆に治る時期を遅らせます。
先ず、発熱の意義ですが、
■病原体は高温下ではその複製が抑制されるか死滅する。
■免疫担当細胞は高温の方が活性化する。
ということで、発熱は感染に対抗するための生体反応です。
そしてさらに、
■痛みは警告反応と過度な動きの制限。
■発赤は血液が集まって代謝を促進。
■腫脹は白血球やリンパ球が集まって感染を防ぐ。
■熱感は免疫力を高めるめに発熱している。
ということで、炎症反応は障害部位を守り治す反応なのです。
ですので、消炎鎮痛解熱剤は炎症を抑えて痛み・発赤・腫脹・熱感を軽減し、苦痛を和らげてくれますが、それと引き換えに直接の治す反応(炎症)を抑えるので症状は軽減するが治るのは遅くなる(問題の先送り)ということになります。
東洋医学の側面から。
外邪に中ります。
この外邪の侵入を許すまじと生気が迎え撃ちます。
そこに気血が集中します。
例えばそれがウィルスに感染した喉に集まるとします。
外邪と争いを繰り広げている最前線なので喉が腫れて痛み発熱します。
気血という陽的なエネルギーが一極集中するわけですから当然喉が炎症します。
この人体における防衛反応を「魂」とします。
魂とは肝に宿る精気ですからこれを主宰しているのは肝です。
肝は五行では「木」に属します。
木は枝を四方八方へ伸ばしますが、肝も四方八方へ気血を巡らして推働・温煦・防衛・固摂・気化を主宰します。
この働きを「疏泄」とします。
ただやみくもに巡らしているわけではありません。
深い考えを持って適材適所に巡らしています。
この深い考えを「謀慮」とします。
そしてその様が、隣国から攻められた際に最前線に兵士を派遣する命令を出している将軍のようなので「将軍の官」とします。
外邪が人体に侵襲した際には、肝が疏泄という働きを発揮して木が枝を四方八方に伸び伸びと伸ばしていくように外邪が中った部位に、将軍のように深い考えを持って気血を巡らし邪正抗争を挑みます。
またこの一連の働きは無意識に行われています。
この働きを無意識の霊(たましい)「魂」とします。
無意識に行われる自己防衛。
これは正に免疫です。
この免疫を担ういっさいがっさいの働きを「肝臓」とします。
消炎鎮痛解熱剤は、この肝臓(免疫)の働きによって出現した痛み・発赤・腫脹・熱感という体を治そうとする炎症反応を抑えてしまうので、苦痛は和らぎますが当然治るのが遅くなるわけです。
如何に鍼灸治療が本質的治療かということがいえます。
風邪の鍼灸治療
◎本質治療
■本治法 生気を補い生気を妨害する邪気を瀉し生命力(免疫)を強化します。
◎対症療法
■喉の腫れ痛み
□子午治療
咽喉痛は小腸経か大腸経の変動です。
小腸-肝か大腸-腎の子午陰陽関係を利用して治療します。
喉の痛い側(判別しなければ左右の人迎~水突の反応を押さえて痛みが強い側)と反対側の蠡溝と大鐘を軽く触って喉の痛みが和らぐ方に治療します。
治療は金鍼30番か古代鍼か中国鍼を接触して補います。
これで痛みが和らぐので効果を持続させるために金粒または銅粒を貼ってその上から知熱灸を5壮します。
自宅でドライヤー灸によるセルフケアを指示してもいいでしょう。
□分界項線上のコリを緩める。
□ナソ治療。
■悪寒
□大椎・風門に知熱灸7壮。
□左陽池か三陽絡を補う。
□足陽寒の左右の圧痛を比べて強い側に5壮、反対側に3壮知熱灸。
■咳・痰(肺炎予防)
□奇経治療
孔最-照海に金銀粒を貼ってその上から5壮3壮で知熱灸。
□大椎・風門に知熱灸7壮。
□肩背部のコリを緩める。
□大椎周辺に現れる血絡から刺絡。
■鼻水・鼻づまり
□奇経治療 陥谷-合谷。
□迎香に上向きにてい鍼を当て補うと鼻水が止まり、下向きに当て補うと鼻が通る。
■肺炎
□奇経治療 照海(患側)-列缺(健側)+陥谷(患側)-合谷(患側)
注意事項
とはいえ、しんどいときに自分で治療するのは中々骨がおれます。
こらアカンと思ったら病院に行きましょう。
またある程度技術がないと全く効きません。
臨床経験の浅い方も無理せず病院に行きましょう。
次に該当する場合も病院を受診してお薬をいただいてください。
◎消炎鎮痛(解熱)剤の適応
■痛みや炎症が生活に差し障るほど激しい場合。
→激しい痛みが持続すると脳の可逆性に問題が起きる。
■大事な要件があり、高熱や痛みにより適えることが難しい場合(EX.子供の結婚式、大事な契約 etc.)
■持続する痛みや高熱により食事が摂れなくなり、体力が著しく落ちた場合 etc.
■慢性疼痛で痛みの悪循環を断つ。
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