風邪の鍼灸治療
【患者】男子学生。
【現病歴】昨日の夕方16時頃に学校から帰宅後、頭と喉が痛くなり何だか様子がおかしいと感じて検温すると熱があった。
その後病院に行って風邪薬をもらって来た。
夜には熱が高くなり39度まで上がった。悪寒はなく体が熱い。寝ている間に汗をかいて朝には一旦は解熱したがまた熱が出てきた。
発熱に加え、頭痛と咽喉痛と首のひきつりがあり、これを楽にしてほしいとのこと。
頭はこめかみと後頭部が痛い。
首はうなじを指している。
その他、鼻水や咳はない。食欲はある。便秘や下痢はしていない。
病の所在
先ずは風邪および急性発熱を外感病によるものなのか、内傷病によるものなのかを弁別します。
※内傷病でも発熱します。
外感病とは風・暑・湿・燥・寒・火などの気候変動が臓腑経絡に影響して発病するものを指します。
内傷病とは怒・喜・思・憂・悲・恐・驚の七情の乱れや過労による精神と肉体の疲弊が臓腑経絡に影響して発病するものを指します。
症候を「八綱弁証」というモノサシを使って分析します。
発熱・頭痛・咽喉痛・首のひきつりは表証です。
食欲はあって便通は正常なので内傷病の根拠となる裏証は見当たりません。
表>裏ですから、外感病による風邪症状と言えます。
次に外感病を傷寒か温病に弁別します。
傷寒とは寒邪によるものを指します。
温病とは温熱の邪気によるものを指します。
今は寒涼の時期ですから、普通は傷寒ですが、発病の経過で悪寒がありません。発熱・体が熱い・発汗ですので、熱>寒です。
どうやら温病の可能性が強いです。
虚実は明らかに実です。
陰陽は八綱の総括ですが、表熱実ですから陽病となります。
傷寒表実証(無汗)であれば麻黄湯、傷寒表虚証(自汗)であれば桂枝湯などで温める治療をして発汗させて寒邪を散寒させますが、温病ですので、表に停滞した実熱を冷ます治療をすべきであるということが分かります。
病位はどこでしょう?
頭痛はこめかみと後頭部ですから胆経と膀胱経です。
咽喉痛は胃経と大腸経か小腸経です。
首のひきつりはうなじですから太陽経か陽明経です。
また発病した時間が膀胱の時間です。
ということで、太陽と陽明と少陽の合病ということになります。
また下痢や便秘がないので腑の熱実には及んでいないと推測できます。
つまり下剤の適応症ではないということです。浣腸や承気湯類は使えません。
外感表実証ですので瀉法が中心になりますが、「内傷なければ外邪入らず」という東洋医学の大原則に従い、その裏に潜む五臓の精気の虚を補う治療を第一とします。
ここが経絡治療の素晴らしいところですね。
【腹診】大腹>小腹。腎最も虚、肺次いで虚、脾最も実、心次いで実、肝は平。
【脉状診】浮・数・実。
【人迎気口脉診】左関前一分人迎>右関前一分気口だからやはり外感病で間違いなし。
【比較脉診】腎最も虚、肺次いで虚、脾最も実、心次いで実、肝は平。
【証決定】腎虚証。
【適応側】病症に偏りなく男子なので左。また左足は気を引き下げるので滋陰降火を狙って。
【本治法】
身熱を主治する左然谷に補法。検脉すると肺も出ている。相剋する脾心の旺気実も治まっている。右関上胃経の脉位に虚性の邪が浮いてきた。切経して反応のある左豊隆に枯に応じる補中の瀉法。脉状が整う。→頭痛が軽減。
【補助療法】
頭痛に対して奇経治療。左臨泣-右外関+左後谿-右申脈に金銀粒を貼付してその上から5-3で知熱灸で奇経灸。→頭痛消失。
咽喉痛に対して子午治療。人迎の圧痛を調べると左側が圧痛が強いので右足の大鐘を古代鍼で補い金粒を貼付してその上から知熱灸5壮。→咽喉痛が軽減。
【標治法】
全身に気を巡らすように散鍼。
【経過】
痛みが和らぎ体が楽になったとのこと。
まとめ
私たちは、天の六気と地の五運によって育まれています。
天地の乱れは私たちの心身に影響します。
ですが私たち自身に肉体の疲労や、
精神の動揺がなければ、影響下を免れます。
「内傷なければ外邪入らず」とは正にこのことです。
生気を補い、生気を妨害する邪気を瀉して、陰陽の調和を図ることが東洋医学の本質です。
本症例の風邪の場合も同じです。
とはいうものの、当然のことながら国民のみなさんは西洋医学がファーストチョイスです。
風邪薬や消炎解熱剤が処方され服薬すると劇的に楽になります。
ですが、治るのが遅くなります。
その理由を、小川卓良先生が、(公社)全日本鍼灸学会東京大会会頭講演にて解説されていますのでその一部をご紹介して結びとします。
「東洋医学と西洋医学-どちらが本質治療に近いのか」-東洋医学は決して非科学的ではない胸張って診療するために-
小川卓良先生(東京衛生学園臨床教育専攻科講師/公益社団法人全日本鍼灸学会顧問)
◇本質治療(原因治療?)とは?
風邪の消炎解熱剤は本質治療なのか?
発熱すると身体は怠くなり、気力は衰える。
→発熱は人体にとって悪いことで解熱は良いこと?
発熱の意義
病原体は高温下ではその複製が抑制されるか死滅する。
免疫担当細胞は高温の方が活性化する。
発熱は、感染に対抗するための生体反応
◇消炎鎮痛解熱剤は治さない薬?!
痛みは警告反応と過度な動きの制限。
発赤は血液が集まって代謝を促進。
腫脹は白血球やリンパ球が集まって感染を防ぐ。
熱感は免疫力を高めるめに発熱している。
障害部位を守り治す反応
消炎鎮痛剤は、炎症を抑えて痛み・発赤・腫脹・熱感を軽減し、苦痛を和らげその間に自然治癒力による回復を待つ。
But.消炎鎮痛剤は直接の治す反応(炎症)を抑えるので症状は軽減するが治るのは遅くなる(問題の先送り)。
◇風邪の東洋医学治療
漢方薬
風邪の引き初めで悪寒状態
発熱を促進し発汗したら発熱状態を維持する。
解熱どころか発熱を促進。
鍼灸
治療すると血行促進・体温上昇し発汗する。
共に発熱→免疫力↑外敵↓
◇発熱の機序
発熱の原因物質
ウイルス、細菌、細菌から産生される毒素、破壊された生体内組織、炎症など。
これらの原因物質によって刺激を受けると…
↓
免疫担当細胞(単球・マクロファージ等)
↓
サイトカイン放出
↓脳に達すると‥
プロスタグランジン産生
↓
発熱
↓プロスタグランジンが視床下部の体温調節中枢に作用すると、設定温度が高いレベルに持ち上げられ発熱する。
生体が自ら発熱を促す
◇風邪に抗生剤は傷害罪?
抗生物質は主に細菌を死滅させる。
風邪のほとんどはウイルスによるもの。
抗生剤はウイルスには無効。
抗生剤は神経、骨髄、肝、腎の各細胞を傷つける&腸内細菌を死滅させる。
風邪に無効な薬を投薬して細胞を傷つける。
患者が欲しがるのも問題?!
◇消炎鎮痛(解熱)剤の適応
1、痛みや炎症が生活に差し障るほど激しい場合。
→激しい痛みが持続すると脳の可逆性に問題が起きる。
2、大事な要件があり、高熱や痛みにより適えることが難しい場合(EX.子供の結婚式、大事な契約 etc.)
3、持続する痛みや高熱により食事が摂れなくなり、体力が著しく落ちた場合 etc.
4、慢性疼痛で痛みの悪循環を断つ。
※詳しく深めたい方は、全日学の学会誌で小川先生の記事を是非ご覧になってください。
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