治療できない患者?治療してはいけない患者?

息子さんに連れられて来院した患者。
どこか様子がおかしい。
問診にも思うように答えてくれない。
☑患者 60代女性。
☑主訴 胸と右の背中が痛い。
☑現病歴 2ヶ月ほど前に突如、胸と背中の痛みを発症。
医療機関では原因がわからないとのこと。
痛みは朝に起こることが多い。
刺すような痛み。
☑既往歴 数ヵ月前に大腸がんで手術入院。
☑愁訴 特にわからない。
☑経絡腹診 脾心虚、肝腎実、肺平。
☑脉状診 浮、数、実。とても硬い。
☑比較脉診 脾心虚、肝腎実、肺平。
☑証決定 脾虚証。
☑適応側の判定 真ん中~右側が痛むので、左。

ということで、左の太白に鍼をしようとすると、突然起き上がって逃げるようにベッドから降りようとしたので、「どうされましたか?」と聞くと、鍼は怖いから止めてほしいとのこと。

《ははーん》とピンときたが、少し様子を見ようと思い、「わかりました。それでは刺さない鍼もありますので、それならどうですか?」と聞くと、よさそうなので、もう一度寝てもらって、左太白をてい鍼で補う。

検脉しようとすると、また起き上がってきて、「もう、痛くなくなったのでいいです。」と言ってまたベッドから降りようする。

気づいた方もおられると思いますが、息子さんに無理矢理連れてこられたのでしょう。
もちろん確認はしていませんが…。
ですから、刺す刺さないに関係なく鍼やお灸が怖くて受けたくないのです。
道中もあわせ、診察中は怖くて怖くてたまらなかったと思います。

一応、「脉だけ確認させてください」と言って、ベッドに横になってもらって確認したふりをして、また息子さんにはお母さんに鍼をしたふりをして、わからないように終わりました。

受付では、「気分が向いたときに、よかったらまたいらしてください。」として、一応の病気の原因、体の状態をお伝えして、次の予約は取らずに気分よく帰っていただきました。

胸の痛みは精神的なものでしょう。
大病もしているし、何より独り暮らしというのも、不安に拍車をかけていると思われます。

そんなわけで、優しい息子さんはどうしても連れて来たかったのだと思います。
ですが、古医書にもあるように、受けたくない人に治療をしても効果がないし、それどころか事故になってもいけないので、このような判断をしました。

そして、こういう考えられない行動をするのは神の異常です。
今回の場合は、腎実です。
恐れ驚きは腎の生理的な感情ですが、虚実があります。
同じ恐れでも腎虚の人は腰を抜かします→陰。
腎実の人はいてもたってもいられず逃げ出します→陽。
柳下登志夫先生が仰っておられた、五臓における精神の虚実を以下の表にまとめましたので、ご覧になってください。

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鍼灸師の鍼灸師による鍼灸師のためのowned 鍼灸にはあらゆる流派や様式が在ります。 この多様性が日本鍼灸の優秀性のひとつだと 感じています。 各流派に優劣は在りません。 それぞれに素晴らしい学術があり、互いを高め合う間柄です。 流派は違えど、患者を病苦から救うという同じ使命を持った鍼灸師です。 元々1つです。 互いを認め高めあい、上工に成れるように、願いを込めてこの名前を付けました。 ONE