異種金属てい鍼経絡調整療法×沢田流太極療法
沢田流太極療法を経絡治療の枠組みの中で補助療法として再考し、追試検討した結果、操作面での普遍性、効果面での確実性、応用面での広範囲を獲得でき、特に鍼灸臨床で最も大事な効果面において、即効性と全身調整・全体治療に優れていることが分かりましたので報告させていただきます。
太極
太極は万物の根源であり、ここから陰陽の二元が生ずるとする。
「易有太極 是生兩儀 兩儀生四象 四象生八卦 八卦定吉凶 吉凶生大業」(易に太極あり、これ両儀を生じ、両儀は四象を生じ、四象は八卦を生ず。八卦は吉凶を定め、吉凶は大業を生ず)である。
道
道(タオ)とは宇宙と人生の根源的な不滅の真理を指す。
道の字は辶(しんにょう)が終わりを、首が始まりを示し、道の字自体が太極にもある二元論的要素を表している。
「道生一 一生二 二生三 三生萬物」(道は一を生じ、一は二を生じ、二は三を生じ、三は万物を生ず)。
無極
さらに「無極」があるが、無極は太極に先行するものではなく、太極の性質を形容するものであるとして「無極にして太極」である。
沢田流太極療法
鍼灸医道中興の祖である、沢田健師が創始した治療法で、日蓮聖人の忠実なる弟子として、鍼灸古道身読の行者を以て自ら任じ、素霊、難経、十四経、和漢三才図絵などを研究し、五臓六腑の中枢を整えれば末梢の病気は全て治るという奥義を体得し、これを大乗法華経の一念三千十二因縁の理による太極療法とした。
後に神様から非常な難問題を与えられ、それを見事にパスしたといふ自覚で、其後は直神伝沢田流開祖を自称するに至る。
鍼灸真髄より抜粋した、師やその弟子の言葉を紹介する。
- 薬物を用いるのは第三の療法、人間の持っている力を活発に働かせるのが第一の医学。
- 医道乱るれば国乱る。
- 国の乱れを正すは医道を正すに如くはなし。
- 書物は死物なり、死物の古典を以て生ける人体を読むべし
- 内臓が完全になほつたときには姿勢も必ずよくなる。
- いらん物は外へ出し、足らんものは補うという大調和の原則によるものなのです。もともと病気のなほるとうのも、調和を失っていたのが調和を得るということなのです。一体病気なぞというものはないのです。血液の循環が不均衡になつた為に調和を失つて具合が悪くなつたので、血液の循環を平均にさせれば調和を得てなおるものなんです。
- 病気というのはくるひがあるということだから、くるつた体はくるつたように穴を取る必要が出て来るのです。
- 太極療法は根本病が治るばかりではない、体質まで改造できるのです。
- 直観力のすぐれた人々の組織した経絡経穴であるとすれば、我等も之を会得する為には、嗜慾を去り、心を空にして、身心を清澄ならしめ、直観力をいやが上にも磨かねばならない。
- 病気というものは、過去の罪行の因縁の結果。
- 迷ってはだめです、信仰です。あくまで信じてやるのです。
- 患者が迷うのではない。あなたが迷つているのです。自ら信じることの出来ないような人にどうして大切な生命があづけられるものですか。
- 死を恐れていたら何も出来るものではない。
- 真に腕さえあるなら山の中へ隠れていたつて人が尋ねて来て、治療せずには居れなくなつて了うのです。
- 子供は神様が守つていられるので子供の病気には命柱で沢山です。
- せん頃わしが神様の試験に出逢った時、この関係がよくわかりました。
- 第三行は第二行の変化で病の第三期に入ったものです。こういう大事なことが誰も解つて居りません。
- 小児七才までを神童と名づく。神これを守る。
- 本当の師匠というものは病人です。病人を師匠として教えて貰うのですよと。だから一円の謝礼を貰つたら、五十銭は教えて貰う謝礼として返すがよい。なほしてやるのではなく、体を貸して貰い、教えて貰うのですのですと。これは今に忘れぬ有難い言葉です。
異種金属てい鍼経絡調整療法
(一社)東洋はり医学会関西名誉会長、宮脇優輝先生が考案された治療法で、その方法は、銅とアルミの異種金属のてい鍼を、局所の硬結を、上下または左右から挟むことで、点であるいは面で、あるいは列で、緩めることができる標治法の一種である。
これを同会副会長、神開雄三先生が臨床追試して体系化し、筆者が異種金属てい鍼経絡調整療法と名付けた。
異種金属経絡てい鍼経絡調整療法×沢田流太極療法=異種金属てい鍼太極療法
従来はお灸で圧痛がなくなるように整えるのを、異種金属てい鍼を用いることで、時短での調整を可能とした。
- 証に応じた背部兪穴を選択する。肝の変動なら肝兪か胆兪の1~3行、心の変動なら心兪か厥陰兪か小腸兪か三焦兪の1~3行、脾の変動なら脾兪か胃兪の1~3行、肺の変動なら肺兪か大腸兪の1~3行、腎の変動なら腎兪か膀胱兪の1~3行。おもしろいことに、陽虚になればなるほど臓兪ではなく腑兪に反応がでる。同じ腎虚でも腎陰虚なら腎兪1~3行、腎陽虚なら膀胱兪1~3行というように。
- 督脉の際(5分)を第一行、1寸5分を第二行、3寸を第三行とする。
- 左右の1~3行の反応を仔細に捉えて、最圧痛点を選穴する。
- そのツボに銅のてい鍼を垂直に当て、反対側のツボにアルミのてい鍼を垂直に当て、1~2ミリ浮かしてかざす。
- 脉の速さに応じて、木・火・土・金・水と唱えて鍼をツボから取る。かざす時間は約3~7秒。
- 効果判定は、圧痛の軽減と主訴愁訴の軽減で確認する。
証法一致すれば、即座に変化する。
病の新久は、新しいものほど1行に現れることが多く、古くなると2行3行へと広がっていく。
尊敬するKenji Seki先生の仰る通りである。
3行には膏肓穴があり、難治を表す言葉で有名な、「病膏肓に入る」は古人の経験の集積である。
また単純に、手の親指の腫れ痛み屈伸不利は、肺兪か大腸兪1~3行とか、足の親指の痛風などであれば、脾兪・胃兪・肝兪・胆兪の1~3行というように、流中の表裏経を考えた使い方も効果がある。
さらには、上歯痛には厥陰兪など、子午治療にも応用できる。
また、急性症の場合は、お腹の四霊穴で調整する。
司天である滑肉門は、上焦の一切合切を主り、在泉である大巨は、下焦の一切合切を主り、気交である天枢は、中焦の一切合切を主る。
心肺の変動なら滑肉門、脾肝の変動なら天枢、肝腎の変動なら大巨の左右差を銅アルで整えると症状が軽減する。
これらを、異種金属てい鍼太極療法とする。
小児命柱に異種金属てい鍼太極療法を施している様子。
症例
- 80代男性、腰痛、肝虚証で本治法後、胆兪1行右銅左アルミで軽減。
- 50代男性、関節炎、肝虚証で本治法後、肝兪2行左銅右アルミで軽減。
- 40代男性、頚上肢のしびれ痛み、肘の屈伸不利、肝虚証で本治法後、肝兪2行左銅右アルミで軽減。
- 10代女性、頭痛、腹痛、胸痛、脾虚肝実証で本治法後、脾兪1行左銅右アルミで軽減。
- 20代男性、膝痛、肝虚証で本治法後、肝兪1行右銅左アルミ+天枢右銅左アルミで軽減。
- 80代男性、肩こり、肩関節周囲炎、肝虚証で本治法後、肝兪2行左銅右アルミで軽減。
- 60代男性、腰痛、足首痛、肝虚証で本治法後、肝兪2行左銅右アルミで軽減。
- 1歳男児、先天性皮膚欠損症、肺虚証で本治法後、肺兪1行+腎兪1行(いわゆる命柱)左銅右アルミで軽減。
- 60代女性、腰下肢痛、脾虚証で本治法後、脾兪2行右銅左アルミで軽減。
- 1歳女児、アトピー性皮膚炎、中耳炎、腎虚証で本治法後、肺兪1行+腎兪1行(いわゆる命柱)右銅左アルミで軽減。
- 70代男性、腰痛、脳梗塞後遺症、腎虚心実証で本治法後、膀胱兪2行左銅右アルミで軽減。
- 80代男性、腰下肢痛、肝虚脾実証で本治法後、肝兪2行左銅右アルミで軽減。
- 40代男性、頚上肢のしびれ痛み、膝痛、逆流性食道炎、肝兪3行右銅左アルミ+天枢右銅左アルミで症状軽減
- 20代男性、慢性関節痛筋痛、肝虚証で本治法後、肝兪1行右銅左アルミで軽減。
- 80代女性、突発性難聴、膝痛、肝虚脾実証で本治法後、肝兪2行右銅左アルミで軽減。
- 50代女性、頚肩こり、眼精疲労、肝虚証で本治法後、肝兪1行右銅左アルミで軽減。
- 60代男性、股関節痛、脾虚証で本治法後、脾兪2行右銅左アルミで軽減。
- 40代女性、腰痛、白血病骨髄移植後経過観察中、心の病、心虚証で本治法後、三焦兪1行左銅右アルミで症状軽減。
- 60代女性、頚肩痛、膝痛、肝虚証で本治法後、肝兪2行左銅右アルミで軽減。
- 50代女性、めまい、全身の筋肉痛、肝虚証で本治法後、肝兪1行右銅左アルミで軽減。
- 60代女性、腰下肢痛、肝虚証で本治法後、肝兪1行左銅右アルミで軽減。
- 70代男性、腰下肢痛、肩関節周囲炎、肝虚証で本治法後、肝兪1行右銅左アルミで軽減。
- 80代男性、肺がん、右肩痛、肝虚肺実証で本治法後、胆兪1行右銅左アルミで軽減。
おわりに
二刀の先駆者である岡西裕幸先生、銅アルによるてい鍼療法を考案された宮脇優輝先生、銅アルてい鍼/奇経てい鍼を作っていただいた伊藤勝則社長、異種金属てい鍼調整療法として確立された神開雄三先生、卓越した臨床成績により沢田流再考のきっかけを与えてくださったKenji Seki先生に心よりお礼申し上げます。
そして何といっても、鍼灸医道中興の祖として今なお私たちに影響を与えてくださる沢田健師と、師の業績を形にして世に残してくださった代田文誌師に深く感謝申し上げます。
なお、銅アルを数秒間かざすだけの手技で事足りているのは、本治法で生命力を強化した上で施しているからであり、異種金属てい鍼太極療法はあくまで本治法の補助療法である。
従来の太極療法のみ、あるいは一穴のみで施す場合は、圧痛が取れるまで施灸するか適当な時間置鍼が必要であることをお断りする次第である。
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