学生たちと経絡治療のお勉強⑥

応用鍼灸治療学Ⅴ(内科)の6回目は、診察診断~本治法終了までを実習しました。
効かせられる効かせられないは度外視して、たった6回の実習で曲がりなりにも証を立てて適応側を決めて選経選穴して補法の鍼を打って生気を補うという経絡治療の基本の型が出来たということに意味があります。
君たちは本当に凄い!
今日患者になった学生は来週は施術者です。
思いきって本治法してください。
楽しみにしています(*^^*)
今日施術した学生は復習として読み進めてください。
来週施術する学生は予習に読み進めてください。

問診

主訴・愁訴を聴いてください。
分かる範囲で何経の変動かをイメージしてください。

腹診

■大腹と小腹の艶と弾力を比較してください。
大腹に艶と弾力がなければ肺虚か脾虚か心虚が予測できます。
小腹に艶と弾力がなければ肝虚か腎虚が予測できます。
この段階で3択と2択に分けてください。

■五臓の虚実を診てください。
先ずは艶を診てください。次に弾力を診てください。

脉診

■脉状診をしてください。
浮沈・遅数・虚実を見極めてください。
刺入の深浅、刺鍼時間、手技手法の選択の根拠となり、治療の適否のモノサシとして最適なツールです。

■比較脉診をしてください。
五臓の虚実を診てください。
最も虚、次いで虚、最も実、次いで実、平を見極めてください。

証決定

脉証腹証一貫性で、
■肝が最も虚、腎が次いで虚、肺が最も実、脾が次いで虚、心が平であれば肝虚証。
■心が最も虚、肝が次いで虚、腎が最も実、肺が次いで実、脾が平であれば心虚証。
■脾が最も虚、心が次いで虚、肝が最も実、腎が次いで実、肺が平であれば脾虚証。
■肺が最も虚、脾が次いで虚、心が最も実、肝が次いで実、腎が平であれば肺虚証。
■腎が最も虚、肺が次いで虚、脾が最も実、心が次いで実、肝が平であれば腎虚証。

適応側

■症状に偏りがあれば健康側を適応側としてください。
■症状に偏りがなければ男は左、女は右を適応側としてください。

選経選穴

■肝虚証は曲泉と陰谷を補います。
■心虚証は大陵と太衝を補います。
■脾虚証は太白と大陵を補います。
■肺虚証は太淵と太白を補います。
■腎虚証は復溜と経渠を補います。

本治法

証に従って所定のツボに補法の鍼を打って生気を補ってください。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
授業ではここまでですが、実際の臨床では、陰経が充分に補えると相剋経の陰経や各陽経に邪が出るので脉状に応じて各論的に瀉法を行います。
生気を補い生気を妨害する邪気を瀉して生命力(自然治癒力)を旺盛にするところまでが本治法です。
その時が来たら思い出せるように記憶の片隅に仕舞っておいてください。
本治法が済んで時間が余ったら、今日みたいに標治法を聴いてください。
そしてやってみてください。
詳しくは9回目から交代する山内先生の授業で標治法と補助療法を実習できます。
幾つか紹介したのを列記します。

■腰の後屈痛は脊中+腰陽寒or上仙の2穴に刺鍼。
■首の後屈痛は第2~3頚椎間に刺鍼。
■首の回旋痛は患側の天容に刺鍼。
等々。
詳しくはここを見てください。ありとあらゆる治療法を包み隠さず大公開しています。
最後に今日の公開臨床で治療した病症を解説します。

生理痛の病因病理

生理とありますように、生理的な現象ですから本来は痛みや苦痛などは伴いません。
生理痛はあって当然と思われている方がいらしたら是非考えを改めてください。

生理(本来は月経と言うべきでしょうが分かりやすく以下生理で記します)は、毎月訪れるコンパクト版の初潮と閉経です。
東洋医学では女子は7の倍数で変化が訪れることになっています。
多少ばらつきはありますが、7×2=14歳で初潮が来て、7×7=49歳で閉経します。
体力が充実してくる年頃に初潮が来て妊娠が可能になり、体力が衰えだすいわゆる更年期に閉経します。

これと同じで毎月最も体力が充実した時に生理が始まり、体力が衰えると生理が終わります。だいたい7日です。ほらね七でしょ!

体力を生気に変換してください。
生気が満ちた時に生理が始まり、生気が干した時に生理が終わります。
そんなわなけで、潮の満ち引きと関連するとも言われています。
この時、体内に邪気を溜め込んでいる人は生気だけでなく邪気も充実してしまいます。
この、邪気が痛みの原因で、邪気が多ければ多いほど痛みが酷くなります。
邪気を溜め込まないことが予防になり邪気をさばくことが治療になります。
邪気を分析すると次の4つが挙げられます。

“気滞・湿痰・瘀血・邪熱”

それではこの邪気はどこから生じたのでしょう?

キーワードは気・血・水です。あくまで東洋医学で考えます。

気滞は、七情(怒・喜・思・憂・悲・恐・驚)の乱れから生じます。
いまでいうストレスです。
感情の起伏が怒を過ぎたり抑圧された状態が続くと気が滞ります。
気が滞るとどうなるか?

“気は血の帥”

とあるように、血の運行は気の運行に依存しています。
さらに血は津液から精製されるので、水も気に依存しています。
東洋医学の大原則として、

“気が巡れば水が巡り水が巡れば血が巡ります”

ですので

“気が巡らなければ水は巡らず水が巡らなければ血は巡りません”

ということで気滞があると水も停滞します。水は巡っている時は津液としてありとあらゆる細胞・組織・器官・臓腑経絡・四肢百骸を潤し養いますが、巡らなくなると湿になります。体を蝕む病的な水なので湿邪とします。湿邪が煮詰まると痰ができるので併せて湿痰とします。

気と水の停滞は血の停滞を招きす。
血瘀であり、瘀血という病理産物が形成されます。
そして瘀血が停滞し続けると血熱へと移行します。

気滞は言い換えれば継続的な緊張状態です。
緊張は1ヶ所に内圧を高め軋轢摩擦し熱してきて火化します。
病的に生じた熱ですので邪熱とします。

この邪熱が子宮で暴れまわるので痛みが起こるのです。
これが生理痛です。
だいたい生理前や生理が始まって1~2日で痛みが楽になりますが、これは経血と共に瘀血や邪熱が抜けるからです。
産後にあれだけ酷かった生理痛が嘘のようになくなったという話をよく聞きますが、出産で瘀血や邪熱が一辺に排泄されたからです。

生理痛の鍼灸治療

本質治療は、十二経絡の主たる変動経絡の虚実を弁え補瀉調整し気血水を整え生命力を旺盛にすることです。

対症療法として最も鎮痛効果があるのが奇経治療です。
少しやり方が特殊です。
先ず恥骨の高さで左右の腹直筋の外縁を押さえると必ず圧痛抵抗があります。
この反応の強い側を患側として、太衝(患側)-通里(患側)+照海(患側)-列缺(健側)にテスターをあてると、腹直筋の圧痛抵抗が和らぎます。
それを確認できたら金銀粒の貼付、奇経灸などを施します。
列缺は必ず健側にするのがミソです。

■左右の蠡溝の圧痛を比べ圧痛が強い側に5壮、反対側に3壮知熱灸をします。

■志室からやや下までの範囲に圧痛硬結があれば反応が強い側に刺鍼します。

養生の大事

邪気があればあるほど酷くなるわけですから普段から邪気を溜めないように心がけることが大切です。

ストレスは気滞を招きます。
脾は清濁泌別と運化を司りますから暴飲暴食や運動不足は湿痰を生じます。
それだけでなく善悪の判断の泌別も為しているので思いを過ごすとやはり湿痰を生じます。
気滞・湿痰は瘀血を形成します。
また外傷や胎毒も瘀血を形成します。
気滞・湿痰・瘀血は最終的に邪熱へと発展します。

心にわだかまりをもたず、適度な食生活と運動を心がけ、慌てずに落ち着いて行動すること、そして妊娠中は大事にしてもらってください、大事にしてあげてください。
妊娠中の安産灸は妊婦さんの心身を滋養してくれます。また胎毒を極力防いでくれます。安産灸については以下を参照してください。
いずれにしても邪気が停滞し続けると子宮内膜症、卵巣嚢腫、子宮筋腫、子宮がん、卵巣がんのリスクが高まっていきます。
未然に防げるにこしたことはありません。

世の女性に苦痛のない生理的な月経が訪れることを願っています。

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鍼灸師の鍼灸師による鍼灸師のためのowned 鍼灸にはあらゆる流派や様式が在ります。 この多様性が日本鍼灸の優秀性のひとつだと 感じています。 各流派に優劣は在りません。 それぞれに素晴らしい学術があり、互いを高め合う間柄です。 流派は違えど、患者を病苦から救うという同じ使命を持った鍼灸師です。 元々1つです。 互いを認め高めあい、上工に成れるように、願いを込めてこの名前を付けました。 ONE