経絡治療家の矜持
先ず立ち位置を明確にしたいと思います。守備範囲や範疇でもいいでしょう。
よく素(問)難(経)医学を根幹にとありますが、素問・霊枢・難経を始めいかなる古典にも経絡治療という文字は出てきません。
それどころか経絡治療を構成する本治法と標治法という文字も実は載っていません。
経絡治療という名前が登場するのは昭和14年からです。
柳谷素霊の「古典に還れ」に端を発し、岡部素道、井上恵理、竹山晋一郎の三先生によって生み出されたのが始まりです。
ですから正しくは、経絡治療とは古典医学書に書かれていた治療法ではなく、昭和14年に産声をあげた比較的新しい治療法です。
にも関わらず古典医学、古典治療と呼ばれているのは、素問・霊枢・難経医学の古典に残る数千年の伝統を正しく伝える鍼灸術、すなわち、陰陽五行、気血営衛、臓腑経絡説を根幹とした医学理論を踏襲して臨床実践されているからです。
経絡治療は診察診断から治療終了まで、終始一貫して伝統医学に立脚して行います。
そんなわけで、古典に経絡治療の四字はなくても問題はないのです。
文字(形)はなくとも魂(気)はあるので。
次に本治法と標治法はどうでしょう?
この三字も古典には見られません。
限りなく似た文字はあります。
標本です。
ただし意味合いが少し違います。
素問や霊枢などで述べられている標本とは、病気や治療の先後・逆従・軽重・緩急を論じています。
本治法と標治法という言葉は、経絡治療と共にやはり昭和14年に新しく作られた名称です。
病体を木に例えてざっくりと説明します。
本治法とは、病気になった体を治すために、変動経絡の虚実を弁えて補瀉調整し生命力を旺盛にする治療法で、木の根っこの治療にあたります。
また証に対する治療です。
標治法とは、病気になったために現れる二次的症状(コリ・痛み・痺れ・麻痺などの感覚異常、肝機能障害・腎機能障害などの機能異常、ヘルニア・癌などの器質異常)に対する治療法で、木の枝葉の治療にあたります。
対症療法とも言われるように、症に対する治療です。
経絡治療では治療対象を明確にするために、証に対する治療である本治法と症に対する治療である標治法を分けて設けたのです。
「病を治するには必ず本を求める」とあるように、本当に必要な一経一穴一本の鍼でことを成せるわけで、純粋な中医学をされている先生方からすると標治法は邪道に映るかもしれません。
標治法は必ずしも無ければならいものではありせんが、やった方が楽になります。
だからやります。
なぜなら、より良い生活を送ってもらえより良く生きてもらえるからです。
そんなわけで、経絡治療は伝統を現代に活かし病や人や国を癒すために革新し続ける治療法です。
経絡治療鍼灸専門家として臨床を第一とし、この素晴らしい治療法を継承し発展させ、一人でもたくさんの人たちに普及啓発し、後進を育成することが僕の使命です。
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