動悸の症例
✅患者 50歳代男性。
✅主訴 動悸と疲れ。
✅現病歴 2週間前にお風呂で長風呂をしたら動悸がし、以降毎日突如として動悸が起こる。
気になって病院で調べたが、心電図、レントゲン等では異常が見つからず、ペースメーカーを24時間つけた結果が数日後にわかるという。
✅愁訴 お腹や背中がはる。深い呼吸がしずらい。
✅経絡腹診 肝腎虚、肺脾実、心平。
✅脉状診 浮、やや数、恐ろしく空虚なので、「めちゃくちゃ疲れてますけど、年末年始忙しすぎたとか？」「いえ、多分ストレスです。実は…。」と言って事の真相を話し始めたが、年明けに集まった中の一人が、2日後に例のウイルスの陽性者と判明、保健所から濃厚接触者に該当するため、指定の機関で例の検査を受けてくださいと連絡があった。
幸いにも陰性で事なきを得たが、直ぐに検査をすると疑陽性となるため、連絡から5日間自宅待機を言い渡され、検査を受けるまで恐ろしくてたまらなかったとのことである。
✅比較脉診 肝腎虚、肺脾実、心平。
✅証決定 肝虚証。
✅適応側の判定 気を下げるために左。
✅本治法 左行間、左然谷を補い、左豊隆に枯に応ずる補中の瀉法。
✅補助療法
●宮脇奇経治療。宮脇奇経腹診®より衝脉と診断。左公孫－左内関に主穴に5壮、従穴に3壮、知熱灸の最適解で奇経灸して施灸後に金銀粒貼付。
🔥最適解知熱灸 ⬇
✅標治法
●気を納める要所である下丹田を安定させるために、上後腸骨棘の左右を比較して高い側の沢田流小腸兪に龍仙打鍼を神氣精と三打して仙腸関節を調整。
●ストレスを和らげるために、素問熱論篇に倣い、督脉上の身柱～至陽までの圧痛を調べ、最も圧痛のつよい至陽に最適解知熱灸3壮。
✅止め鍼&セーブ鍼 中脘穴→非適応側の天枢→適応側の天枢→下腹部正中の最も虚した箇所に止め鍼をしてドーゼの過ぎたると及ばざるを調節し→百会左斜め2～3㍉後ろの陥凹部にセーブ鍼をして治療効果を保存。
✅経過 軽快。「多分は心臓は大丈夫ですよ」と伝えると喜んで帰られた。
✅反省と考察
本症は奔豚気病です🐷
奔豚気病とは、下焦の気が突然衝脉を伝って上逆する病で、下腹部から胸部、咽喉部にかけて発作的に何か塊状の物が衝き上げ、病人は非常な苦痛と恐怖を覚え、一時は死ぬのではないかと思うほどですが、しばらくすると発作は自然に治まり、症状も緩解します。
病因は、驚😨(恐怖😱と不安😖💧)です。
あるいは、発汗や焼鍼(温める治療)の誤治をしても発症すると、聖典『金匱要略』の奔豚気病脈証治第八に記されています。
また、奔豚には腎奔豚と肝奔豚があります。
本症例は、脉証腹証共に肝虚証だったので肝虚証で治療して良くなったことを考えると肝奔豚だったということでしょう。
恐怖というストレス(肝鬱)で生命力が低下していたところに、長風呂による発汗で陰血を消耗したことが引き金となり、引き締められなくなった陽気が胸に衝き上がって(衝逆)、動悸を発症したものと思われます。
また、動悸には虚実の別があり、心動と怔忡がありますが、臨床的には凡そ判別のつくものでありません。
治療は証(病因病理)に基づき治病求本します。
経絡治療では、腎虚心実証か肝虚証か肝虚心実証(七十五難)で本治法することが多いです。
心神を鼓舞する意味でも即効性のある補助療法と標治法が大切です。
補助療法は、奇経治療が即効性があります。
衝脉か陰維脉です。
もちろん鑑別は伝家の宝刀宮脇奇経腹診®で診断します。
ストレスが強ければ、変法で太衝－内関や内関－太衝の場合もあります。
標治法は、聖典『素問』刺熱論篇を臨床応用します。
ストレスがあるとほとんどの場合、身柱～至陽までの督脉上に圧痛が現れます。
この圧痛にお灸をすると、圧痛が消失軽減し、動悸が治まり、ストレスが楽になります。
また、気が上に衝き上がるということは、下焦に引き締める力がないということです。
臍下丹田といわれますが、直眞伝沢田流では下丹田です。
ここに気を納めます。
刀でいえば鞘です。
鞘が壊れていると刀を納められないように、下丹田が不安定だと気を納めることができません。
下丹田を簡単に安定させるには、仙腸関節を調整します。
左右の上後腸骨棘の高さを比べて高い側の沢田流小腸兪に打鍼します。
小腸兪は小腸腑や小腸経の盛衰が現れる診断点であり治療点です。
小腸と肝は子午陰陽関係で密接に繋がっています。
肝鬱、つまりストレスがあると肝が変動しますが、小腸にも影響します。
沢田流小腸兪は仙腸関節のカーブに位置しますが、肝が変動すると小腸も変動し、小腸の兪穴である小腸兪が変動すると、仙腸関節が脆弱になり、下丹田が不安定になります。
槌がなければ、てい鍼や鍼管を指頭叩打しても目的を果たせますので、臨床追試してみてください。
参考になれば幸いです🙇
🐲龍仙打鍼
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